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本蔵-知る司書ぞ知る(114号)

更新日:2024年4月20日

本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2024年4月20日版

今月のトピック 【レイチェル・カーソン】

「異常気象」が毎年続き、地球環境の大きな変化を感じ環境問題に意識を向けている方も多いのではないでしょうか。環境問題に大きな影響を与えた人物の一人にレイチェル・カーソンがいます。4月14日は没後60年になります。著作として有名なのは農薬の影響を扱った『沈黙の春』ですが、その他にも複数の本を執筆しているほか、伝記も出版されています。

今回は大阪府立図書館が所蔵する資料からレイチェル・カーソンに関するものを3点ご紹介します。

センス・オブ・ワンダー』(レイチェル・カーソン/[著]、上遠恵子/訳 新潮社 1996.7)

著者の没後に出版された遺作となります。幼い甥のロジャーと一緒にアメリカのメイン州にある自然を探索した日々を回想し、「子どもといっしょに自然を探検するということは、まわりにあるすべてのものに対するあなた自身の感受性にみがきをかけるということ」と記しています。自然から得るよろこびについて改めて考えるきっかけになる本です。

レイチェル:レイチェル・カーソン『沈黙の春』の生涯』(リンダ・リア/著、上遠恵子/訳 東京書籍 2002.8)

レイチェル・カーソンの伝記は複数出版されていますが、この本は、環境史が専門の大学教授である著者が200人におよぶ関係者から取材し、10年余りの年月をかけて執筆されたものです。約800ページにおよぶ大作であり、カーソンの人生そのものと生涯で受けた影響をより詳しく知ることができる本です。

レイチェル・カーソンに学ぶ環境問題』(多田満/著 東京大学出版会 2011.7)

この本は、代表作である『沈黙の春』、『海辺』、『センス・オブ・ワンダー』を取りあげて、生態学とエコロジーの観点から読み解き、環境問題を考えていく入門書となっています。実際に読んでみると、入門書とはいえ内容はやや難しく感じるかもしれませんが、さらに学んでいくための関連書も紹介されているので、環境に関する問題意識を持たれた方は一度読んでみてはいかがでしょうか。

今月の蔵出し

景観アイテム図鑑 ヨーロッパ編』(高橋揚一/著 井上書院 2007.6)

景観は様々なもので成り立っている。そのことがよくわかる本です。                                                               看板やポスト、ベンチなどの生活装置、歩道やバス、鉄道などの街路交通、川や丘、氷河などの自然、建築物など、ヨーロッパの景観をつくる100のアイテムを紹介しています。

例えば「洗濯」です。ヨーロッパでは景観を守るために洗濯物を干さないよう条例で規定している町がたくさんあります。一方、イタリアやポルトガルの下町では、路地裏に洗濯物が並んでいます。その光景からは町に住む人の生活が見えて、趣を感じます。                                           「におい」や「音」などの目には見えないものも景観をつくるアイテムです。空気にまざった土地ごとの食べ物のにおいや、ことばの音の違いといった一つひとつが景観の印象に奥行きを与えます。スイスの山の澄んだ空気、大聖堂のカリヨンの音などが、目に見えるものをより鮮やかにしてくれます。                                         「寄生建築」というものもあります。アテネの通りに古くからある小さな教会の上に近代的なビルが建てられています。大きさのせいか教会がビルに寄生しているように見えますが、寄生しているのはビルのほうです。景観として「美しく」見えませんが、そのちぐはぐな感じもおもしろいです。                           

このほか、「警官」や「泥棒」などの人物、「祭り」や大道芸人の「パフォーマンス」などもアイテムの一つとして取り上げられていて、自分も景観を作っている一部なのだなあとこの本を読んで実感しました。                                                                  

アジアなどのほかの地域も見てみたいと思い検索してみましたが、残念ながら本書のみでした。

【ピョルハナ】

チェロの木』(いせひでこ/[作]  偕成社 2013.3)

表紙を開くと、チェロのケースの中でうつぶせにすやすや眠る赤ちゃんの絵があります。
「ヤマバトの子どもが鳴いてるね。ぼそぼそとまだたよりない声だけど、鳥はああやって、さえずる練習をするんだよ。ぐぜりっていうんだ」
おじいさんの言葉はチェロの音のように静かに心に響いて、お話が始まります。

森の木を育てる仕事をしていたおじいさん、工房でチェロやバイオリンを作るおとうさんに愛情深く見守られ、少年は成長します。森にひとりででかけては、鳥や、川や、風の音を聞き、切株にすわって年輪を100まで数え、100年以上そこで生きて、いろいろなものを見たり聞いたりし、今は楽器となって歌っているかもしれない木に思いをめぐらせます。
少年は演奏家パブロさんと出会ったことからチェロに魅せられ、おとうさんは仕事の合間を縫って、小さなチェロを作ってくれました。紅茶のように透明であたたかな色をしたそのチェロで、おとうさんに手を添えてもらってはじめて音をだしたとき、少年はおとうさんの腕の中で自分がチェロになったような気がします。
最後のページを開くと、大人になった少年が選んだ職業がわかり、はっと胸を衝かれます。このことについて作者のいせひでこさんは「自分でも思いがけなかった」と語っています。少年は「子どもたちに寄り添い、未来を手助け出来る大人」(『illustration』2024年3月号 通巻241号*)になったのです。
チェロと、チェロの木と、音楽でつながる人たちへの、作者の深い愛情が感じられる1冊です。

*の資料は館内利用のみです。

【チェロっち】

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